池田町観光協会

COLUMN

2018/12/1
それぞれにとってのワイン城
それぞれにとってのワイン城

 1974年の建設以来、全国初の自治体ワイン「十勝ワイン」を世に送り出してきた「池田町ブドウ・ブドウ酒研究所」、その外観が西欧の古城を彷彿することから「ワイン城」の名前で親しまれています。そのワイン城が、建設から44年が過ぎ、今、新たな施設へと生まれ変わろうとしています。

 ワイン城は、池田町内を見渡せる高台・清見の丘に建っています。先日、弊所の職員が町内の小学校に講師として招かれました。事前に寄せられた質問、その中に、「ワイン城はなぜ今の場所(高台)に立てたのか?」というものがあり、担当職員が自分のもとへ。数年前、やはり小学生から「どうしてお城の形をしているのか?」との質問を受けたことを思い出しました。これらの質問に明確に答えるシーンがあります。
2005年にNHKプロジェクトXで十勝ワインが紹介された際、本町のワインづくりの発案者である丸谷金保氏(元池田町長)と一緒に番組に出演した、本町のワイン事業の礎を築いた大石和也氏(前池田町長)は、次のように言っていました。「あれは、『十勝ワイン』を日本全国に広めるための攻め城、なんだと。あの高台から、ワーッと広めていくんだと、そんな願いをこめたんですよ」
 
 ワイン城は、十勝ワインの製造施設として、広告塔として、観光施設として、44年間大きな役割を担ってきました。だからこそ、町のランドマークであり続け、時として町民の誇りにもなっています。

数年前、町内の小学4年生がまちづくりの一環として行われているワイン造りを学ぶため、ワイン城の見学に訪れ、私が案内役を務めたときの話です。
 広大なブドウ畑、巨大な設備、たくさんの樽、カビだらけのオールドビンテージワイン。「わぁ、大きい」、「あっ、お母さんが生まれた年のワインだ」。その感動する姿に、なぜか新鮮さを感じていると、一人の女の子がつぶやきました。「ワインって、すごいなあ。やっぱり池田の誇りだ」。彼女の瞳が輝いたように見えました。
 最後に質問を受けました。「池田のワインの一番自慢できるところは何ですか」。最初に「町民みんなが協力し合ってワイン造りをしているところ」と答えました。キョトンとしている子供たち。私がそう答えたのは、子供たちがワインのことはわからないと思ったからではありません。もっと伝えたいものがあったからです。
 秋になれば広大な町営圃場のブドウ収穫には多くの町民がボランティアとして参加する。中学生も授業の一環として加わる。池田町の成人式では、中学生時代に自分たちが収穫したブドウから造られたワインが記念品として贈られる。池田町民は日本一ワインを飲んでいると言われている。更に、自らが楽しむだけではなく町外の知友人に広めている。こうして、町民みんなで作り上げてきたワイン事業なのです。
 色々と説明した最後に、「町民みんなに支えら、町民みんなが誇れるワイン造りだから、池田町や十勝ワイン、ワイン城は有名になったのですよ」。私の言葉に大きくうなずく子どもたちの中に、先ほどの女の子がいました。彼女の瞳は更に輝いていました。
 
現在進めているワイン城改修計画、「町民が集うワイン城」を大きなキーワードとしています。そして、観光客の方々と町民の交流が生まれ、これまで町民が育んだ独自のワイン文化を広めていく。そのことで、町民がワインのある生活に潤いと、ワインのまちに生まれ、育ち、生活することに誇りが感じられる。
 
 最後に私事で恐縮ですが、もう少々お付き合いください。
自分がこのワイン城で勤務を始めたのは31年前の春、どうしても池田町でワイン造りがしたくて飛び込んだ世界でした。自分にとっては、池田の市街地から見上げるワイン城と、そこで勤務することに大きな喜びを感じてきました。立場上、池田町役場職員であり、 途中、異動で4年間はワイン城を離れましたが、4年前の春、ワイン城に戻り、ワイン城勤務計28年目、3年半前から「所長」を勤めています。
更に私事になりますが、8年前、自分がちょうどワイン城勤務から離れていたとき、不自由な体で自分を育ててくれ、晩年は町内の我が家で同居していた母が、余命1年と宣告され入退院を繰り返していました。自らの死期が迫っていることを感じながらも、病床で気丈に振舞っていた母でしたが、自分と2人になったとき、「母さん、まだ死にたくないんだ。お前が仕事で頑張っている姿をもう少し見ていたいんだ」。でも、願いはかなわず、その後間もなく天国へと旅立っていきました。
まだ、菩提寺を持っていなかった我が家でしたので、母の死を機に町内のお寺にお世話になることにしました。母の遺骨は、一年後に亡くなった父の遺骨と一緒にそのお寺の納骨堂で眠っています。そのお寺、ワイン城と同じ清見の丘にあり、ワイン城の裏に位置しています(ワイン城の正面は西側、お寺は東側なもので)。母が亡くなって8年を迎えようとしていますが、いつも思っています。今でも自分を、ワイン城を見守っていてくれ、時に背中を押してくれていると。

それぞれの思いを乗せたワイン城、2020年春には改修を終え、生まれ変わったワイン城が皆さんをお迎えすることとしています。どうぞ、ご期待ください。

(池田町ブドウ・ブドウ酒研究所 所長 安井 美裕)

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